日本一になった白菜のこと ~有機JAS認定農家チヨちゃんの野菜 インタビュー前半

有機JAS認定農家 チヨちゃんの野菜(以下、チヨちゃんの野菜)は兵庫県多可町で20年以上、有機野菜を作り続ける有機JAS認定農家※です。

厳格な基準を満たした7つの圃場(1町3反)で、日本の伝統野菜とイタリア野菜、約60種を栽培。
その多くが、育った野菜から種を採り、また植える「自家採種」です。

営農のモットーはシンプル。「安心で、美味しい野菜を作り」。そして「嘘をつかないで、ちゃんとしたものを作ること」なのだとか。

今回、そんなチヨちゃんの野菜の代表・岡野圭佑さん、美代子さんご夫婦が、繁忙期の最中、「多可町の盛り上がりに役立てるなら」と、当サイトのインタビューに応じてくださいました。

※有機JAS:日本農林規格。JAS法に基づいた生産方法に関する規格。現在、有機JASのカテゴリーは有機農産物、有機加工食品、有機飼料及び有機畜産物の4品目(4規格)がある。これらはすべて、有機JASが設ける基準に沿い、生産。実情・実態を有機JAS登録認証機関が検査・認証する。有機JASマークを使用できるのは、この検査をパスした生産者・事業者に限られる。

インタビューは2部構成。

前半は2022年2月、有機農業のイベント「オーガニック・エコフェスタ」※で日本一に輝いた白菜にまつわる「びっくり!」な裏話や思い出深いお客さまとのこと、そして、多忙を極める商社マンだった圭佑さんが就農することになった特異な体験について伺います。

まずは、日本一の白菜について、教えて! チヨちゃんの野菜さん!

※オーガニック・エコフェスタ2022:コロナ禍の対応を始め、今後も安全・安心な食を供給するため、有機農業や有機農業の事業者、新規就農者を支援し、さらには生産者と消費者、流通業者、行政関係者等の連携を目的とした未来志向の農業支援イベント。

目次

・堂々の日本一! 抗酸化力が平均の約6倍もある白菜
・忘れられないお客さま
・商社マンからの転身 ~ガラリと人生が変わった

堂々の日本一! 抗酸化力が平均の約6倍もある白菜

『野菜の栄養価全国コンテスト 多可の農家夫妻が「白菜部門」で最優秀賞』(2022/3/18 神戸新聞NEXT)

美代子さん ―― 私たち、スーパーで売られている野菜は食べないので、よくわからないんですが、ときどき、お客さんが教えてくれるんです。「ふだん買う野菜、ほとんど味がしない」って。

圭佑さん ―― うちの野菜は、昔ながらの、昔の味。作ってる僕らは、野菜に対してどうしても厳しくなりますが、それでも美味しく感じますからね。誰が食べても美味しいはずです。
ただ、味がしない野菜に慣れていると、味が濃すぎてびっくりするかもしれません。

―― 野菜、固有の味が濃いんですね。やはり、日本一になった白菜も同じでしょうか? コンテストについて、詳しく教えていただけますか?

圭佑さん ―― 徳島県で今年(2022年)2月、「オーガニック・エコフェスタ2022」という有機農家が集まるイベントがあったんですが、そこに出品された白菜のなかで1位に選ばれました。

―― 有機野菜のなかのチャンピオン白菜だったとは! この分析結果、比較された平均値って、有機で育てられた白菜ですよね? にも関わらず、チヨちゃんの野菜、その白菜は抗酸化力が6倍近くもあるなんて圧倒的で……検査された白菜の成分について、教えていただけますか。

美代子さん ―― 主な調査項目はビタミンCと抗酸化力、Brix糖度、硝酸イオンの含有量です。

抗酸化力(植物ストレス耐性力)は、人の免疫力や老化防止に作用するといわれます。この数値が、出品された有機の白菜の約5.9倍でした。

Brix濃度は、野菜のなかにどれくらいの溶解物が溶けているかを示します。塩分や蛋白質、酸なども含まれるんですが、一般的には糖度の目安として使われます。白菜で7.6%は「ありえない数値」みたいです。

圭佑さん ―― 硝酸イオンは窒素化合物のこと。自然界のどこにでも存在するんですが、含有量が増えれば野菜の生育に悪影響があったり、摂取しすぎると体に悪いとも言われます。うちの白菜は、この数値がコンテスト平均の2割ぐらいでした。

―― 日本一という結果、どう受け止められましたか?

圭佑さん ―― シンプルに嬉しかったですよ。野菜に対する自信はありましたけど、これだけ差が付くとは思ってなかったですね。そもそも……(笑)

―― そもそも……?

美代子さん ―― 私が台所で、包丁を入れる寸前でした、送った白菜(笑)

―― え? コンテスト用に、とっておきを送られたのでは……?

美代子さん ―― それが、すっかり忘れてまして……コンテストのこと。

圭佑さん ―― 思い出したとき、畑の野菜はおおかた収穫して、売りに出してしまっていた。「……送れる野菜がないぞ。まずいな……」と思ったとき、台所で切られそうになってる白菜を見て、「それや!」と(笑)

―― 慌てて送った野菜が、圧倒的な差をつけて1位に?! 全国の有機農家さん、恐れおののくのでは……

圭佑さん ―― コンテストの主催者から「白菜はもう出さないでくれ」と言われました(笑)

 ―― まさかの出禁ですか(笑)先日、chattanaの森で開催された試食会で、白菜が1個3,000円すると伺って驚いたのですが、この数値を見ると価値観が新しくなりますね。新規のお客さまから注文も殺到するのでは……。

圭佑さん ―― うちは野菜を出荷できる数が限られていますし、定期的にご注文くださる常連さん、定期的に出店してる東京のマルシェなど、売り先が決まっているので、まずはこちらでお売りすることになります。

 ―― となると、収穫量やタイミング次第だと思いますが、私でも注文はできますか?

美代子さん ―― もちろんです。うちの有機野菜は本物なので、食に関心が高かったり、健康志向だったりする方だけじゃなく、妊婦さんや体調がすぐれないお客さまも多いんですよ。畑に来られる方もおられます。

忘れられないお客さま

―― お客さまが、直接来られることもあるんですね。ご購入された方との、印象的なやりとりなどありますか?

圭佑さん ―― 外国のお客さんはすごいよね。

美代子さん ―― ああ、マルシェなんかだと、そうやね。「有機野菜を見つけたら、あるだけ買う」って感じで。

圭佑さん ―― 海外だと、有機野菜なんて珍しくもなんともないんです。政府が後押ししてる国も多いからね。

でも、日本で本物の有機野菜を買おうとすると、なかなか難しい。だから見かけると、「いましかない」って思うんでしょうね。

美代子さん ―― こないだもイチゴをね、手のひらサイズのパック、1つで800円で販売していて、これってスーパーとは比べ物にならない価格でしょう。

でも、お一人のお客さまが「棚にあるの、全部ください」って、買って行かれて。

圭佑さん ―― マルシェに出すと、子どもがね、パッと見て気に入ってくれるんですよ。「このキュウリがいい!」とか。

美代子さん ―― あの様子は可愛いよね(笑)ピュアなものがわかるんでしょうね。

圭佑さん ―― それについては海外の子も、日本の子も、違いはないかな。

 ―― 体調がすぐれない方も、よく来られるそうですけど、ネットで検索されてるんでしょうか。口コミとか。

ある末期がんの患者さん

美代子さん ―― そうですね。ホームページ経由で、連絡してくださる方はおられます。妊婦さんや重たい持病を抱えておられるお客さま、お医者さんに「有機野菜を食べなさい」と言われる方もいらっしゃいます。

圭佑さん ―― ある日ね、遠くから来られたご家族があって。旦那さんが末期がんで、余命3ヶ月と宣告されてました。
「食事ができるところまでは回復した」ということで、体にいい食材を探しておられて。

美代子さん ―― あの方は、わざわざ、大阪の市内から来てくださったのよね。

圭佑さん ―― 最初はね、疑っておられたんですよ。「有機? なんだそれ」って感じで明らかに、僕らを信用してない。とはいえ、必死さは伝わってきた。藁にもすがる思いっていうのでしょうね。「もし、効果があるなら……」と。


そこでね、僕はあえてお伝えしたんです。


「僕とこの野菜、薬じゃありません。食べたからって、元気になれるわけじゃない。ただ、この野菜は力強いんです。その力強さを体の中に入れたら、ご本人のエネルギーが引き出される。そういう機能はあると思ってます。直接はお助けできませんが、僕とこの野菜の力を使って、ご自身で元気にされてください」って。


その時、奥さんがすごく泣きはってね……。そりゃ、僕だって何とかしてあげたい。あげたかったですよ。でも、医者じゃないし、野菜もお薬ではないしね。


結果的に、なにか……厳しいことを言ってしまったかなと。

美代子さん ―― 泣いてしまったよね……。

圭佑さん ―― 今でも、後悔しています。それからは、あのご家族、畑に来られなかったしね。うん……あの時の出来事は忘れられませんね。

商社マンからの転身 ~ガラリと人生が変わった

 ―― 本物を作っておられるから、心の底から求めてる方とも出会うんでしょうね……。お話しにくい話題だったかと思います。お答えくださって、ありがとうございました。ここからは、就農のことをお聞かせください。チヨちゃんの野菜を始めたのは何年でしたか?

圭佑さん ―― 2002年です。当時、僕は商社の仕事で海外にいたんですが、日本に帰ってきたとき、女房が「畑に行ってきたら?」と言うので、それに従いまして(笑)

美代子さん ―― 「行け!」と言いました(笑)あの頃、主人は仕事が忙しくて、円形脱毛症がいっぱいあったんです。私の父と母が畑をしていて、のんびりしたところで過ごすのがいいのではないかと思って、「ちょっと手伝ってみて」と。

圭佑さん ―― まぁ、そう言われてもね……土を触ったことがなかったし、ましてや農家なんて見たこともない。そもそも、ネオン街が大好きで(笑)

美代子さん ―― 酷いんですよ。畑にね、スーツと革靴で行って……。

圭佑さん ―― お父さんに長靴を借りた(笑)

畑に入ったはいいけど、やっぱり何していいか、さっぱりわからない。お父さんには「石だけ拾っておいてくれ」って言われて、草だらけの中に放り込まれて。

それが、まさかですよね。

 ―― まさかとは?

圭佑さん ―― 端的に言えば、畑の土で体が癒された。初めての経験でした。

圭佑さん ―― 触ってみたら、柔らかいんですよ、畑の土って。なんだか心地が良くてね、土のなかに指を突っ込んだら、商社の仕事で、何年も忙しく働いたストレスやら疲労感やらが、指先からどんどん抜けていく感じがした。

美代子さん ―― 夕方になっても、夜になっても、夫が帰って来ないんです。おかしいな……と思って畑を見に行ったら、うずくまっていた。

―― え? 何時間も……同じ格好だったんですか?

圭佑さん ―― 両腕を土に突っ込んだまま、動けなかった。「なんて気持ちがいいんだ……」と。「僕の人生を救ってくれるのは、これや」。そう感じました。

―― 実際に、そんな現象が起きるとは…………

別に農業をするとかね、そんな大それたことを思ったわけじゃない。ただ、土と関わることを決めたんです。あれからざっと20年経ったけど、あの感覚……指さきから、土が吸い取ってくれる感覚がありますよ。残っている。

これが就農のきっかけですね。

 ―― 商社を辞められたのは、その後、どれくらい経ってからですか?

圭佑さん ―― 休暇が明け、本社に行って、辞表を出しました。

―― すぐですか?!

圭佑さん ―― 会社がびっくりしてね(笑)「労働ビザを取ったばかりじゃないか!」とか、「どの会社に引き抜かれたんだ?」って(笑)彼らはまさか、僕が土や畑の仕事をするなんて思いもしなかったでしょうね。

―― 畑での体験、お伝えにならなかったんですね。

圭佑さん ―― 誰が信用してくれます? 「畑で土に触れたら動けなくなった。これが一生の仕事だと感じた」なんて。辞表を出したとき、僕自身が「あれって、本当にあったことなのか……」と疑う気持ちがあったくらい。他人に理解させるなんて無理ですよ。

あぁ、でも……以前、こんな話を2,000人ぐらいの前でしたんですよ。喋る前は「僕の個人的な体験を話したところで……」という気持ちもあったんですが、話しているうち、会場からすすり泣きが聞こえてきて(笑)

―― おお……

圭佑さん ―― しかも、話しを終えてから、おばあさんがひとり、僕のところに来て「私も同じ体験をしました」って言うの。だから、似たような出来事は、ときどき起きてるのかもしれない(笑)

―― あの……こんなのって失礼かもしれませんが、チヨちゃんの野菜、お名前の響き、かわいらしいと思いまして。

美千代 ―― 私たちもそう思います(笑)母の名前をつけたんです。

 もともと私、すごい虚弱体質でした。小学生の頃は、午前中に行って、給食を食べて帰りに病院で点滴をして帰るような暮らし。

小児科の担当医が「食べるものと水を換えた方がいい」というから、母が野菜を作り始めたんです。

その時は、いまよりも農薬を使う時代だったので、母が「体にいいものを」って、オーガニックで栽培してくれました。

おかげで、虫だらけの野菜が食卓に上るように(笑)

圭佑さん ―― 事業名を考え始めたとき、「子供たちのため、家族のため」を思う気持ちが同じだったので、お母さんの名前を使わせてもらうことにしたんです。

インタビュー後半は?

ここまで、日本一に輝いた白菜や農家に転身した奇跡的な体験、そして忘れられないお客様について伺いました。
インタビュー後編は、チヨちゃんの野菜有機野菜にこだわる理由や有機農家にとっての多可町、さらに新規就農を志す方に向けたメッセージが語られます。
記事は鋭意制作中! 近日公開いたします。

基本情報

有機JAS認定農家 チヨちゃんの野菜
生産者:岡野圭佑・美代子
Tel/FAX.078-785-3627 
E-mail:chiyochannoyasai@gmail.com
兵庫県多可郡多可町中区高岸424
HP:http://www.chiyochannoyasai.com/

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