本物を受け継ぎ、未来につなぐ。醤油を木桶で仕込む、その本懐 ~足立醸造 p.2

目指すは有機製品100%! 新蔵を建造し、グローバルな市場に船出する

1889年の創業以来、木桶を使った醤油づくりを続ける足立醸造株式会社。現在、全諸味の約80%が「有機(オーガニック)醤油」です。

近年は海外輸出に力を入れ、より輸出強化のためオーガニック醤油熟成蔵を建設。農林水産省が立ちあげた「国産有機サポーターズ」※にも選定されています。

こうした新しい取り組みを進める一方で、足立醸造が大事にしているのは伝統技法や仕込み。醤油蔵の根幹について、足立醸造の直売ショップ店長・足立学さんに教わります!

※国産有機サポーターズ:国産の有機食品の需要喚起に向け、農林水産省が事業者と連携して取り組むための新たなプラットフォーム。令和4年2月時点で89社が参画する。
公式HP:https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/supporters/suppoters_top.html

●足立醸造インタビュー

本物を受け継ぎ、未来につなぐ

PAGE.2

目次
 木桶で仕込む
 厳選した材料
 熟成 ~約1年の長期熟成
 伝統製法と最新技術を掛け合わせる

木桶で仕込む

創業以来、春夏秋冬の自然のままの天然醸造、そして木桶仕込みにこだわる足立醸造。

醸造に使われるのは「木桶」です。プラスチックや金属ではなく、「木」の桶で仕込み続け、その数は現在約70本。120年以上も使い込まれた吉野杉の木桶など、年代物がひしめきあいます。

「醤油メーカーは国内で1500社ぐらいありますが、自社工場で作るところは少ないんですよ」と足立学さん。

「材料を洗ったり、選別して仕込んだりしてから醤油を製造するのは、国内で約10%以内。実は自前の蔵で原材料処理し、製麹する蔵は国内でもすごく少ないです。

そのなかで木桶を使う企業、どれくらいあると思います?」

そう尋ねられ、うーんと首をかしげたまま答えが出せませんでした。

「考えさせて、すみません(笑)たぶん50社程度しかないと思います」

木桶を使う醤油メーカーが、国内でたった……それぐらい?

「ええ。さらに、『有機醤油』を自社の木桶で醸造しているところともなると、ほんの数社です」

聞いたところ、木桶は「究極の発酵容器」といわれるんだとか。

「春夏秋冬の気候に醸造されることで、醤油の味はまろやかになり、やさしい口当たりになります」

そういえば……桶によって味が違うのでしょうか。 

「そうですね、味わいは違います。ただ、味や品質に直結するのは桶の違いよりも、仕込んだ季節や熟成期間ですね」

厳選した材料

ここで、足立さんに「醤油作りの醍醐味」を尋ねました。

「醤油作りは工程が長く、手間暇がかかります。材料選びや品質管理など、繊細な作業もたくさん。ただ、複雑で奥深い製造を、一企業だけで取り組むことに誇りを感じるんです。

また、大豆や小麦を生産してくれる農家さんと話し合いながら、協力し合いながら、ひとつの製品を生み出せることが嬉しい。醍醐味ですね」

足立醸造は大豆や小麦などほとんどの原材料を契約農家から購入しているそうです。

「大豆って一般的には、まん丸のイメージですよね。煮豆とか、そうだと思うんです。でも、有機栽培された大豆は、天候に左右されやすいため痩せていたり形は悪かったりすることもあります。

でも、私たちは有機の農家さんがどうやって育ててくれているか、お会いして畑を見せてもらっています。

ある農家さんは『有機農業は雑草との闘い』だとおっしゃるんですよ。足立醸造のために、真夏も雑草を抜き続け、汗水垂らして大豆を育ててくれる。

納品された豆を見て、選ぶとき、その農家さんの顔が浮かぶんです。パッと見ると、形がきれいじゃなくても、1粒1粒がどうやって育てられたか想像できます。『強烈なパワーが込められている』って感じるんです。

弊社の醤油は、そういう農家さんのご苦労、熱意があってこそ作れます」

熟成 ~約1年の長期熟成

醤油の仕込みについて、「どんな作業から始まりますか?」と足立さんに尋ねると、間髪いれずに「洗うことです」と言われました。

「材料の大豆が届いたら、醤油作りに使える大豆を選び、洗うところから始まるんです。小麦もそう。

次が製麹の工程です。洗った材料を ―― 大豆なら蒸し、小麦は焼きます。これに種麹を混ぜ、塩水と一緒に桶に入れます。この製麹の工程を外注する醤油メーカーもとても多いですが、弊社は自社で行っています」

醤油作りの下地、原材料の見極めや下ごしらえを大切にする足立醸造。「商品にまつわるあらゆる人、流れを追えるようにしている」と足立さんは話します。

「選び抜いた材料を、こだわりの製法で醸造してることが、伝わればいいなと」

5月の初旬になると、木桶のなかでアルコール発酵が開始。

「マフィンみたいな状態でボコボコ、ボコボコ、泡が浮くようになります。これが、職人がいちばん汗をかく時期に入るサインですね」と足立さん。

「ここからは地獄の季節(笑)5月の頭から8月いっぱい、発酵が進んでくるので、それこそ朝から晩まで、ずっと桶の中をかき回さなきゃならないんです。

蔵の中は暑いし、動き続けるのはしんどい。それでも放っておくとダメになってしまうから、避けられないんですよね。土日、祝日であろうと休めません」

品質管理を担当する職人さんは、棒を動かすコツについて「回転させるんじゃなく、上下に動かすこと」と話す。「桶のなかで固形物と液体が分離し、いくつかの層を作るんです。棒を上から下におろし、下を上に持ちあげてこの層を崩し、中身を混然一体にすることが大事です」

手をかけ、時間をかけて熟成する醤油。木桶で発酵が始まってから約1年後 ―― 

「もろみを出して、圧搾します。このときの醤油が『生揚(きあ)げ醤油』。加熱処理していないので独特の味わいがします」

「生揚げ醤油のニーズもありますが、賞味期限の問題や常時冷蔵と管理が難しいので、それはできなくて。火入れをして濾過し、香りのいい純正な醤油になります」

足立醸造の醤油は10種類、味噌は5種類、もろみなど加工製品は3種類。

伝統製法と最新技術を掛け合わせる

仕込みの話を聞かせてくれた足立さん。木桶を使い、足立醸造伝統の技法で醸造をする。夏期に続く重労働 ―― 撹拌の作業など、まさに人力です。

「とはいえ、伝統一辺倒ではないんです、弊社の醤油作り。

たとえば、製麹(せいきく)。煮た大豆と焼いた小麦に麹菌を混ぜ合わせ、製麹します。

たった2日間とはいえ、醤油作りの重要な工程。麹の温度や湿度は職人が経験と勘で調整していました」

足立さんは「製麹は醤油造りにおいてとても重要な工程の一つです」と話します。

「祖父の時代は昔は全て手作業で麹の世話をしていたので大変でした。今の本社工場は自動製麹を導入し、その分品質はだいぶ安定してきたんです。ただ、微調整はやはり職人の勘と経験の世界になります。

麹は生き物ですので、製麹する季節によっても状態が変わってきます。その見極めには大変な労力と時間が必要になります。

今、若い世代の職人へと技術が渡り、さらに飛躍できるように経験を積み重ねていきたいと思います」

「足立醸造」次の記事を読む → 蔵祭りで活性化!「有機醤油を100%製造する醤油蔵」に向かって

基本情報

足立醸造株式会社

兵庫県多可郡多可町加美区西脇112
TEL 0795-35-0031
FAX 0795-35-0281
HP:https://www.adachi-jozo.co.jp/
SHOP: http://www.adachi-jozo.co.jp/shop

取材:小迫悠香/黒川直樹 
撮影・ライティング:黒川直樹

足立醸造の記事一覧

p.1:こだわりの有機と新しい蔵のこと ~足立醸造
p.2:本物を受け継ぎ、未来につなぐ。醤油を木桶で仕込む、その本懐
p.3:蔵祭りで活性化!「有機醤油を100%製造する醤油蔵」に向かって

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