地元農家が教えてくれる農業体験ツアー 2025年1月18日

気候は温暖で、豊かな自然に囲まれた兵庫県多可町。播州百日鶏や酒米の王様・山田錦、有機野菜など付加価値の高い食材が多数あります。

一方で、農家や農地は減少傾向にあり、農事業の復興が喫緊の課題です。

そこで今回、農業体験ツアーを企画。
田舎暮らしや農業に関心がある方にご参加いただきました。

ツアー概要

1.主催の農家さんが多可町の現状と事業について解説
2.実際に町内を回り、2人の農家さんとFAQ形式で会話

ツアー1 多可町の農業の現状と事業を続けていくポイント

講師:藤岡さん(AgLiBright/七代目藤岡農場)

多可町で農業法人AgLiBrightを経営する藤岡さんはにんにくをはじめ、こだわりの野菜を栽培する有機JAS認定農家です。
モットーは「人の体に安全、安心なだけではなく、環境にも優しい環境・農法の推進」。
多可町の不耕作地を利活用し、有機JAS圃場も拡大中です。

今回のツアーを組まれた企画者でもあります。

まず藤岡さんは自然環境や特産品など、多可町の風土を説明。
20㏊(東京ドーム約5個と同等)を超える面積で展開する、ご自身の事業についても解説されました。

有機JASを取得した理由や抑草・除草、肥料、獣害の現状など詳しくお話し、参加者さんがメモを取るペースもどんどん速まります。

「昨今の米不足で、米価格の高騰が止まりません。これまで30kgで1000円程度だったクズ米でさえ、いまや4000円台で取引されてます」とタイムリーな話題も語られ、参加者さんも身近に感じた様子。

さらに、にんにくを中心にした事業のつよみや今後の栽培品目、その収量のシミュレーションも語られ、農業に関心がある参加者から質問が出ました。

―― 藤岡さんは20ha以上を耕作され、この地域では大きな事業を営まれていますよね。何名ぐらいで働かれていますか?

藤岡さん「ふだんは家族や知人など、数名で田畑を管理しています。ただ、繁忙期は10名以上です」

―― 多可町は人が多くないでしょうし、農業に携わる人の数も減っていると聞きます。必要な数のスタッフさんを集められますか?

藤岡さん「難しいのが現状ですし、苦労されてる農家さんも少なくありません。私は知人や過去に手伝ってくださった方への声かけのほか、公式LINEアカウントも利用しています」

開催スペース:kaji家 カフェスペース

ツアー2 農耕機械の見学

講師:宮崎さん(株式会社あぐりたか)

「多可町を農業で知られる町にしたいと思い、社名を『あぐりたか』にしたんです」と話す宮崎さん。

町内でも大規模稲作で知られ、町内の田んぼ19町でコシヒカリやキヌムスメ、酒米の山田錦、山田穂(山田錦の母方の稲)などを栽培。牛の肥料ロール(イネホールクロップサイレージ)などを生産します。

今日は農耕機械を紹介・解説してくれます。

溝を掘る機械やうねをつくったり、うねの水持ちをよくしたりするアタッチメントや、草刈り機を見せてもらいます。

普段、間近にすることのない工作機械、その大きさや歯の鋭さに圧倒されます。

場所を移動して、黒豆を乾かす機械や苗を作る装置、獣害対策の網・支柱を見学。

「この網と支柱は丈夫なので、10年は使えますよ」

倉庫の奥に置かれていたのは、新車の田植機。

「GPSが付いていて、自動で田植えをしてくれます。でも、この辺りの田んぼは小さいので、GPS機能は使わないんですけどね」

お米の乾燥や保管の機械もズラリ

宮崎さんは若い世代の雇用にも熱心です。

「きついとか汚いないと思われがちな農業ですが、機械化が進み、ドロドロになることはほとんどありません。繁忙期(4~6月、9~10月)以外は定時に帰れますしね」と話します。

「農業は残業とか休暇といった概念がなかった業界。それでは若者が働きづらいので、うちは年に120日以上の休日を設け、繁忙期も週に1日は休んでもらってます。年俸制で副業OK。他にやりたいことがあったら、やってもらっていいんです」と、自由度の高い雇用形態を設けているそうです。

ツアー3 地域密着の営農について


講師:祐尾さん(農場なつめやし)

「分け与えられるものを作りたいと思って、農業を始めました」と話すのは祐尾さん。農場なつめやしの経営者です。

町内で手に入る落葉やススキ、米ぬかなど、有機物質だけで育てられる野菜は60種以上。少量多品目の営農スタイルです。

そんな祐尾さんが、地域密着型の農業や農業を始めたきっかけを紹介してくれます。

「私は約10年間、100カ国以上を旅しました。お金がなくなれば現地で働いて、それでもやりくりできなくなったら日本に戻ってバイト。貯めたお金でまた海外に行って(笑)」

「やりたい農業に、いちばんぴったりだったのが、生まれ育った場所だったんです。父がお米を育てていて、田んぼや畑も回りにあって、ここでやっていこうと思って」

日本の伝統野菜から中国野菜まで、珍しい品種も栽培する祐尾さんに、参加者さんが尋ねました。

―― 種はどうされてますか?

祐尾さん「最初は、種の販売会社から購入します。メルカリでも売ってるので、それを試すこともあったり。買って、植えて、育てて、美味しかったり、育てたい季節にぴったり合ったりしたら、種を採ります。育てる野菜の全てではないですが、農場なつめやしでは、こうした自家採種で栽培する品目がいくつもあります」

参加者さんから「青虫の被害はないですか?」と聞かれ、「うちは、青虫に困らされたことはないです。ただ……」と祐尾さん。

「蛾ですね……。蛾の卵、ふわふわしててかわいいサイズなんですけど、それが一つ見つかったら、中に何千って幼虫がいて……畝が一つ、全滅します! うちの畑は幸運なことに、大きな道路に挟まれていることもあって鹿やイノシシは来ないんですが、虫との闘いです! カラスやちいさな動物に食べられることもしょっちゅうです」

野菜や栽培、営農について、和気あいあいと会話が盛り上がる中 ―― この日、一番若い参加者さんに祐尾さんが声をかけました。

祐尾さん「お若いのに、農業に関心があるんですか? いいですね! 自分が食べるものや、食べ物を取り巻く環境に関心を持つことはとっても大事だし、農家としても嬉しいです」

ある参加者さんが「急にお米が買えなかったりとか、野菜がすごく高くなったりとか……お金があっても、食品が買えない世の中になりそうで、不安です」と話しました。

祐尾さん「お金は食べられないんですよね。持っていても、お腹は満たされない。世界を歩いてるとき、そういう国をいくつも見ました。農業ってたくさん稼げるわけではないし、体力的に辛いこともありますけど、食いっぱぐれないし、なにかあったら分けてあげられる。農業っていいなと思います」

ひとりの参加者さんが、雲一つない空を見上げ「多可町は雪が降りますか?」と尋ねました。

祐尾さん「私が子どものころは、ずいぶん降ったんです。でも、最近はほとんど降らないし、積もるとしても年に1、2回ですね。ただ、多可町も北部は積雪が多く、その先のトンネルを抜けた青垣エリアに至っては環境が全く違います。ビニールハウスもビニールを取るとか、熱が出せる機械を入れるとかする必要があって。そういう意味でも、多可町は恵まれてると思います」

ツアーを終えて

ツアーを終え、藤岡さんが話してくれました。

「あぐりたかの宮崎さんはビジネス思考。多可町に敷地面積を増やしながら、機械を使って作業効率を高め、きちんと収益を上げておられます。

農場なつめやしの祐尾さんは地域とのつながりや信頼関係、顔の見える距離感での販売網など営農を通じて感じられる幸せを大切にしている印象です。

私は有機JASを取得し、有機農業を拡大しつつ、慣行農法による農業も並行するハイブリット式を採用しています。現実と理想をどちらも追いかける……実は一番、欲張りなタイプかもしれません(笑)

私たち3名の農業観や手法、経営状態に違いがあったことが、結果的によかったかもしれませんね。
参加された皆さんに反応があって、質問もたくさんいただけて盛り上がったと思います。

移住や農業に対する意識がちょっとでも高まったり、新しい角度から考えられるきっかけになったなら、嬉しい。また、多可町に遊びに来てくれるといいですね」


イベント概要

地元農家が教えてくれる農業体験ツアー
日時 2025/01/18(土) 13時~16時
費用 1,000円(参加費+飲料代込み)
集合場所 Kaji家(兵庫県多可郡多可町中区鍛冶屋477番地)

運営主体 

㈱多可町地域商社RAKU
多可町の有機栽培野菜については買取販売を実施。
兵庫県内でのマルシェ活動や販路拡大を通して農産品のPRを行っています。

公式HP
https://raku-taka.com/

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