山田錦発祥のまち・多可町を酒蔵が訪問~2023年の検見風景

山田錦発祥のまち・多可町。2023年秋 ―― 酒米(山田錦)の稲穂が黄金色に近づくなか、各酒蔵が検見のために多可町を訪れました。

検見とは、酒蔵が村米制度※でつながる集落を訪れ、山田錦の生育状況の説明を受け、その年の出来栄えを圃場の巡回を行って観察し、農家や集落と交流・意見交換を行ったりする大切な行事です。

コロナ禍が明け、再開された検見の様子を写真レポートします。

※村米制度:播磨地方の酒米産地と特定の蔵元との間で結ばれる酒米取引制度のこと。契約栽培の一種。

目次

秋田県酒造組合(圃場:中区岸上)
白鶴酒造(圃場:中区東安田)
福光屋(圃場:中区坂本)

秋田県酒造組合(圃場:中区岸上)

9月下旬、秋田県酒造組合が田んぼを検見。
当日は雨予報だったものの「傘を差すことなく、田んぼをご案内できてよかった」と農家さん。
13年目になるという今年の検見は、秋田県酒造組合から那波商店、天寿酒造の2蔵が代表して訪問され、山田錦をじっくり観察されました。

第二部の報告会では、今年の天候や山田錦の状態について情報交換が行われました。

山田錦農家・吉田さんは「おそらく山田錦史上、最も暑い夏だった」と振り返り、他の農家も大きくうなづいていました。
「ただ、稲穂への悪影響は今のところ出ていない。期待してほしい」との言葉に、酒蔵の方も安心された様子でした。

2023年7月、豪雨災害に見舞われた秋田県酒造組合に、お見舞いの贈呈も行われました。

これを受け、那波尚志氏(株式会社那波商店代表取締役)は「被災に対し、多可町の皆さんからお見舞いとお声がけをいただいた。ありがとうございました。山田錦で美味しいお酒を仕込んで、恩返ししたい」と話されました。

白鶴酒造株式会社(圃場:中区東安田)

10月上旬、白鶴酒造株式会社(本社・兵庫県神戸市東灘区。以下、白鶴酒造)が多可町中区の東安田を訪れ、約20名が田んぼを検見しました。

東安田の田んぼで栽培されるのは山田錦ではなく「白鶴錦」です。

白鶴錦は白鶴酒造が独自開発した酒米。
山田錦と同じ「山田穂」と「短稈渡船」を親に持つ、いわば兄弟です。
誕生して、多可町の東安田で栽培されるようになり、およそ18年の歴史があります。

山田錦と白鶴錦の見分け方は「白髭」こと「芒」(ぼう)があるかどうか。後者は穂の先に3~4cmほどの芒がのびています。

また、白鶴錦の粒は2.1mmと山田錦に比べて大ぶり(山田錦の基準は2.05mm)。
一方で稲刈りの時期が山田錦より10日ほど遅くなり、「10月といえば台風シーズン。稲刈りが10日遅くなればリスクは高まる」と白鶴錦を栽培する農家・大山さん。
「豊かな収穫量は台風被害の危険性と引き換えなんです」とも。

大山さんが「今年はカメムシなどの虫害もほとんどなく、生育は順調」と話すと、皆さんホッとした様子でした。

東安田の田んぼで採られた種が、白鶴酒造の契約・管理する兵庫県内の農家の元へ運ばれるそうです。

株式会社福光屋(圃場:中区坂本)

10月中旬、石川県金沢市の酒蔵「株式会社福光屋」(以下、福光屋)が多可町中区の坂本集落を訪れ、約20名が山田錦の検見と交流会に参加しました。

コロナ禍がようやく明けた2023年、福光屋の検見は4年ぶり。
代表取締役社長の福光松太郎氏も訪れ、坂本集落の皆さんと旧交を温めながら、検見を行われました。

坂本といえば、県内でもいち早く山田錦の有機栽培に取り組み、有機JAS認証のために田んぼを整備するなど、先進的な山田錦の栽培農法に取り組んできた集落です。

坂本集落と福光屋とのつながりは、遡ること1960年(昭和35年) ――
村米制度で提携して以来63年間、村ぐるみで福光屋へ山田錦を届けています。

第二部は報告会。
今年の山田錦の生育状況や出荷状況から、農家の高齢化問題、新たな山田錦の活用法など、情報交換は多岐にわたりました。

会の終わり ―― 他の集落から参加された方が「坂本はすごいんですよ」と教えてくれました。

「有機JASの田んぼは、もちろん除草剤なんて使えないので、雑草は一本一本、手作業で処理。私も一年間、手伝わせてもらったんですけど……とんでもない重労働でした。ぱっと見るだけではわからないところに、ほんとに細かく手を入れられていて。長年に渡って、こうした仕事を続けてることからも集落の皆さんの熱意が伝わってきます」

坂本集落の山田錦。コロナ禍は日本酒の需要が落ち込み、出荷数量も低めに調整したそうです。
しかし「今年はほぼ、例年通りに戻ります」と福光松太郎社長。
お酒の出来が楽しみですね。


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