名物は鶏の唐揚げ ~読売巨人軍のドラ1も通った喫茶店

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2022年、開店から45周年を迎えた「喫茶やすらぎ」(兵庫県多可町八千代区)。

この地に染色を根付かせ、播州織の源流になったともいわれる野間川 ―― そのほとりに建つ老舗は、渡辺夫妻が切り盛りされています。

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夫・隆造さんは1977年(昭和52年)、26才で脱サラ。
料理経験がほとんどない状態で、かつ銀行員という職を捨て、お店をオープンされることに、危ぶむ声もあったそうです。

「『定年後でもいいのでは?』と、同僚がね(笑)でも、どうしても飲食店がしたかった。朝はモーニング、お昼は食事、夜はお酒を呑みながら、やすらいでいただけるお店がつくりたくて」

元銀行員の隆造さんですから、資金繰りや経営の計画は、さぞかし綿密に……と思いきや、意外な答えがありました。

「まるっきり(笑)情熱と勢いで建てました(笑)」

奥様も「よくね、道路の脇とかに、お地蔵さんの小屋、あるじゃないですか。始めの頃のお店、あれくらいの大きさだったんですよ」と懐かしそうです。

「そうそう、小さくて(笑)珈琲だけ、仕入れ業者から淹れ方を教わりました。それにしても、3日間(笑)料理は自己流です。一番出たのは、焼きそばかな。具は豚肉と玉ねぎ。玉ねぎの甘みが受けたのか、お客さまから『美味しいね。どう作るの?』と聞かれてね」

名物は鶏の唐揚げ

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日替わり定食(からあげ)750円(税込み)

オープン当初、焼きそばが売れ筋だったという喫茶やすらぎ。いまの名物といえば……?

ずばり、唐揚げです。

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認知度アップに一役買ったのは、読売巨人軍・翁田大勢投手※。
2021年のドラフトで読売巨人軍に1位指名され、新人王の本命ともいわれる抑えのエースが「僕のソウルフード(故郷の味)は、やすらぎの唐揚げ」と話したことで、広く知られるようになりました。

※翁田大勢:多可町八千代区出身。渡辺さんのお孫さんと同級生で、「ちいさな頃から一緒に遊ぶ仲でね、私が翁田選手を車で送ったこともあります」と隆造さん。



学生時代の翁田大勢投手がインタビューに答える「広報たか」

ところが、隆造さん、「メニュー、ないんですよ」と一言。

え……?

「唐揚げね、メニューに載ってないんです」。

常連であれば誰もが知っているように、喫茶やすらぎといえば唐揚げ※であり、定食を含め「それ以外のメニュー(おかず)は存在しない」という都市伝説もあるほど。お持ち帰りも可能で、子どもや学生のおやつとしても人気です。

そんな定番が裏メニューだった……? 

たしかに見当たりません。「鶏の唐揚げ」の文字が、メニューにない。では、どうして知られるようになったのでしょう。

「地域のお母さんたちが『家で揚げ物は大変だから、助かります』って買いに来てくれるようになってね、ここ数年はコロナ禍のテイクアウト需要もあったし、少しづつ認知度もあがったのかな。電話でもときどき問い合わせがあります」

いまでは週末ともなると、テイクアウトだけで70食が売れることもがあるそうです。

「こだわらない」のが、こだわり

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もはや多可町名物の一つとも言えそうな、喫茶やすらぎの唐揚げ。
その調理法を尋ねたところ、隆造さんは「門外不出!」とキッパリ。

「嘘です(笑)私、こだわりがないんですよ。こだわると『ああしなきゃ、こうしなきゃ』が先に立って、続かないからね。唐揚げも普通の作り方をしています。半日から一日、タレに漬け込むだけ」

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「ただ、にんにくは使いませんね。仕事の休み時間に食べに来てくれる人は、その後人に合うかもしれないし、臭わないほうがいいでしょう? あとは、食べて行ってくれた子どもが、親御さんに、買い食いしたってバレないように(笑)」

隆造さんの気配りを伺いながら、ひとつ思い出しました。「やすらぎは、唐揚げしかない ―― 」という都市伝説のこと。

「ははは、メニューにある料理は、どれもオーダーしていただけますよ。夏はあんみつ、冬はぜんざい。甘いものもやっています」

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「ぜんざいは『はなボタル』と名付けたんですが、これは井上ひさしさんの戯曲に出てくる遊女の名前を取りました。

八千代区といえばホタル※ですが、冬にもね、ホタルのような光が灯ればいいなと。そこに、舞台で遊女を演じた女優さんの艶やかで、儚い姿も重ねてね」

※八千代区は「ほたるの宿路」など蛍が見られるスポットがある。ただ、コロナ禍ということで、ここ数年は大体的なイベントを控える。

お餅が2つ、お椀も2つの「はなボタルぜんざい」(税込500円)は、開店当初からの定番メニュー。

注文できるのは冬期で、「だいたい12月から」と隆造さんは話します。

シーズンになっても「用意ができない場合がある」ため、食べたい方は電話予約がオススメです。

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看板は隆造さんの手描き
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「うちは唐揚げ以外も注文してもらえますが、材料がないときもあるので、その場合はごめんなさい(笑)」

これからの喫茶やすらぎ

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喫茶やすらぎはオープン当時、八千代町※の役場や商工会、福祉関係の施設などが立ち並ぶ、いわば町の中心地にありました。

ただ、お店の場所は同じでも、時代が移ろい ―― 「播州織の工場が減って、景気も落ち込んだ。ずいぶん変わってしまいました」と、隆造さんは話します。

※多可郡八千代町。2005年、中町、加美町との合併を機に多可町八千代区になった。



「合併によって役場や商工会が移動したしね、仕事を求めて町内からどんどん、人が出て行って……」

奥様も「私たちも、仕事を掛け持ちするようになりました」と教えてくれました。

いま、コロナ禍や戦争の影響によって、原油価格や食品の原材料が高騰。さまざまな製品・サービスが値上がりしています。経営にとって厳しい状況で、かつ客足も以前ほどではないとしたら、やすらぎ名物の価格も……?と伺ったところ、隆造さんは即答でした。

「据え置きです」

でも、ゴロゴロっとした唐揚げが山盛りなのに、あの価格では……なんて、こちらの気がかりをカラっと晴らしてくれたのは、奥様の笑顔でした。

「利益は出るようにしています(笑)テイクアウトの唐揚げ(1カップ250円)にしても、お客さまに『この量だと、仕入れの肉だけで売値以上にならない?』とご心配いただくことがありますが、大丈夫(笑)」

隆造さんが続けます。

「お小遣いに限りがある子どもたちにも、気軽に食べてほしいですしね」

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最後にひとつ、尋ねました。

喫茶やすらぎは、隆造さんにとって、どんな存在ですか、と。

「生きがい。それはずっと……店を始めた頃から変わりません。地域に以前のような賑わいがなくなったけれど、いまはお客さま一人ひとりと話せる時間が増えたり、孫が学校帰りに寄ってくれたりね。
いいものですよ、自分の店って。ここで妻と、子どもと過ごしてきて、いまも暮らしのすべてが始まっている感じがします。
情熱ですか? 46年前、店を始めたときと全く変わりません。大変なこともいろいろあったけれど、やってきてよかった」と言って、一息ついた隆造さん。
「生涯現役でいたいですね」

奥様が立つ厨房 ―― 使い込まれた中華鍋からバチバチ、バチバチっと油が跳ね、唐揚げの香りが充満します。

「まぁ、珈琲を注ぐ手が、お客さまの前で震えるようになったら、もういけないけどね(笑)」

喫茶やすらぎ インフォメーション

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住所:677-0121 兵庫県多可郡多可町八千代区中野間668
営業時間:8時~22時
定休日:不定休(ほぼ休みなし)
TEL:0795-37-1317

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