山田錦の藁でしめ縄づくり~多可町鍛冶屋の伝統行事

「しめ縄」とは、神社など神聖な場所に不浄なるものの侵入を防ぐ祭具。

多可町の鍛冶屋集落(中区)は、これを酒米「山田錦」の藁で作ります。

来年の藁づくりが大詰めを迎えた集落を尋ね、藁づくりを担うお祷人※をインタビューしました。

※お祷人(おとうにん):集落の祭事を執り行う係。ふるくは「お頭」と書かれ、長男が一生に一度務める名誉だった。時代とともに、くじ引き制度で決まったり、順繰りの交代制・複数人制になったりと変化。現在は祭事「お当渡し」を期に一年間で交代。「おとうにん」や「お当人」など、集落によって表記が異なる。

今年のお祷人さんをインタビュー

 ―― しめ縄に使う藁といえば、うるち米だと思っていました。鍛冶屋では山田錦の藁を使うのですね。

むかしは五穀豊穣の祈りを込めて、餅米の藁を使っていました。

だいたい5~6年……いや、もっと前ですね。鍛冶屋では山田錦を使うようになりました。あの長さと太さが、しめ縄にぴったりなんですよ。

 ―― 毎年、何本くらい作られるのでしょう。

しめ縄を13本、大しめ縄を3本を作ります。

 ―― どれくらいの藁を使いますか?

軽トラックの荷台、山盛りで4杯以上。田んぼでいうと1反分が必要です。

この何倍もの藁を集め、より合わせていく

藁の束に雑草が混じると、抜き取りに時間がかかるので、稲作のときからきれいな状態のほうがやりやすい。

今年は吉田町長の田んぼから藁をもらいましたが、雑草がほとんどなかった。

きれいに育ててくれて助かりました。

 ―― しめ縄の作り方を教えていただけますか。

脱穀した藁を室内で2~3週間、乾燥させます。

つぎに小束にした藁を叩いて、袴取り(飛び出ている藁の皮を剥ぐ)をして、きれいな状態にします。

工程は、しめ縄と大しめ縄で違います。

しめ縄

治具に藁を詰める

端をくくる

藁づくりのベースになる束

束を万力に噛ませ、ねじった束を作る

ねじった束を、またより合わせ、しめ縄ができる

大しめ縄

大しめ縄は公民館を借り、10人ぐらいで4時間以上、作業をします。

このとき専用の道具や治具を使うんですが、なにせ太いので、より合わせているうちに細くなったり、逆に膨らむ箇所が出たり、ねじれたりしがち。

見栄えよく、スタイル良く作らなければならないので、整っていない所はいったんほどき、藁の状態・量を調整しながら、ちょうどいい太さに直します。

 ―― 風物詩とはいえ、大仕事ですね。

力仕事はどうにでもなりますが、材料の仕込みと作業工程に気が遠くなりました。

でもね、バランスよく作れたら嬉しいし、やり甲斐がありますよ。それはお祷人の役も同じ。

役が始まった当初は、お祷人が伝承する「お祷日記」を読み、「こんなに沢山の仕事、私にできるだろうか……」と不安にもなりました。でも、実際やってみると、神社や地域の歴史など、初めて知ることがたくさんあってね。

鍛冶屋のお祷人は二人体制なので、仕事は分担しつつ、金比羅神社の砂をかいて整えたり、榊を山から採って参拝客にお渡して喜ばれたりしてね、いい経験です。

 ―― しめ縄づくりも、お祷人のお仕事なんですよね。

そうですね。作るのは、翌年にお祷人を務める二人。前任のお祷人と、集落の詳しい方に教わりながら、新年を迎えるしめ縄を作ります。

 ―― 新品に替えられるのは、いつですか?

1月14日、とんどの日※です。古いしめ縄は焼き、新しいものに交換します。

※とんど:正月のお焚き上げ行事。地域によって円柱、円錐、箱型など形は異なるものの、基本的には地元で採った竹材や松・飾しめを組み上げ、前年の御札や正月の飾り・縁起物を寄せ合わせ。これに火を点け、先祖の供養や鎮魂、悪魔祓い、新年の無病息災を願う。

大しめ縄は大歳金刀比羅神社の大鳥居と拝殿、本殿に。

しめ縄は境内の小宮(小さな社殿)に設置します。

小宮に飾られたしめ縄

一年経つと、ところどころ色あせやカビが見られますが、まだまだきれいな状態でね。

もったいな気もしますが、新しいしめ縄に替えると、新年を迎える気持ちになって、やっぱりいいですね。

若い頃は感じなかったのですが、お祷人さんも今だからこそありがたいと思えます。

伝統的な行事も残していくことが難しくなっているけれど、あらためて歴史の重みも感じながら金毘羅神社を参拝しています。

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