百年水で仕込む山田錦の純米酒 株式会社福光屋(石川県) ~シリーズ「多可町の山田錦」

本日は、石川県の酒蔵・株式会社福光屋(金沢市石引)を訪ねます。

南方に霊峰・白山を望み、兼六園まで真っ直ぐ歩いて15分。情緒溢れる石引の地で約400年に渡り、お酒をつくり続けてきた福光屋は「米を発酵させる会社」を理念にし、金沢で最も歴史ある酒蔵です。

その杜氏が板谷和彦さん。

「朝一番、仕込み水を飲み、その味わいで舌や鼻の状態を確かめる」など体調管理を徹底し、良質な酒造りに尽くす最高責任者に、麹づくりや酵母の育成、蒸米、搾り ―― お酒ができるまでの工程をご案内いただきます。

目次

福光屋について~純米酒だけを製造

酒米を蒸す

麹をつくる

酵母を育てる

醪を仕込む

搾る~槽場

神社 ~自然現象と百年水への感謝

福光屋について~純米酒だけを製造

本日は多可町からはるばる、お越しくださってありがとうございます。

弊社は2001年から、純米酒だけを造っています。醸造アルコールを足したり、アミノ酸や水飴を添加したお酒はありません。

また、北陸3県を対象にした酒類鑑評会に、多可町・坂本集落の山田錦を使用したお酒を出品し※、ありがたいことに6年連続で優等賞を受賞しました。

※福光屋は村米制度で1960年から、坂本集落と提携。村米制度とは契約栽培の一種で、播磨地方の酒米産地と特定の蔵元との間で結ばれる酒米取引制度のこと。

全国の鑑評会には、しばらく出品していなかったのですが、3年前から出すようになりまして、昨年は金賞をいただきました。

お世話になっている坂本集落の皆さんに、いいご報告ができるかなと思っています。

酒米を蒸す

ここは酒米を蒸す場所です。

蒸し米の一番いい状態は「外硬内軟」(がいこうないなん)。外が硬く、中が柔らかい蒸し上がりを目指します。

杜氏は蒸し上がった酒米を手でひねって、蒸し具合とかお米の柔らかさとか、そういったものを確かめます。これを「ひねり餅」と言います。

酒米の粒が残り、もちもちした感触の「ひねり餅」

蒸米の指示は細かく出します。

例えば、水に浸ける時間帯と長さ。「朝の5時に浸し、6時まで浸ける」とか、「1分30秒だけ水をかけて」とか、千差万別です。「16時間~20時間ぐらい」と長い時間の指示もあります。

一方で、自分の感覚も大事にするんです。蒸米の段階では、微生物の力はまだ全然働いてない。人間の判断と作業が全てなので、ここが杜氏の仕事の一番の見せどころとも言えますね。

麹をつくる

そして、麹づくり。お酒は、原料の酒米を酵母が食べることでできるのですが、実は、この酵母。直接、酒米を食べることができません。

酒米は、いったん麹によってブドウ糖に変えられ、その糖を酵母が食べるという「2段階の発酵」を経て、お酒になります。

麹は麹室の中で約2日間かけてできあがります。蒸した酒米のデンプンを溶解・糖化する酵素をはじめ、各種酵素を造り出すことや酵母の栄養源を供給する役割があります。

酒米のデンプンをブドウ糖にする麹は「コウジカビ」というカビの1種で、高温多湿なところが大好きなんです。


こちらに出来上がったばかりの麹があるので、どうぞ食べたり、触ったりしてください。

「 一麹、二酛、三造り」(いちこうじ、にもと、さんつくり)という酒蔵の格言が示すように、昔から「麹づくりが一番大切」と言われます。お米をいかに使えるようになるか。杜氏の大切な仕事です。

麹を口に入れると、蒸し栗のようなふかふかした食感と、ほんのりとした甘みが感じられる。

酵母を育てる

こちらの部屋では、酒づくりのもう一人の主役、酵母を育てています。

麹がつくり出すブドウ糖を酒に変えるのは酵母という微生物。酒母造りは、彼らを育てる工程です。

酵母にはそれぞれ個性があり、よい香りを出す酵母や旨みを出す酵母など、福光屋では約300株の酵母を保存しています。

日本酒を造る場合は、通常、蓋のないタンクを使います。

昔は木製の桶を使い、口の開いたもので仕込んでいたんですけども、味わいが安定せず非常に腐りやすかった。今ではステンレス製の容器で造っています。

仕込んだばかりの酒母。酒米の粒が見える。

仕込みから2週間ぐらい経つと、甘みは酵母が食べ尽くし、甘くなくなります。この段階で大体、1g中に2億から3億個まで、酵母が増えています。

飲むヨーグルトみたいな味わいの酵母。「1日、2日経つとガラッと変わるので、酒蔵に来たからこそ、味わっていただける味」と板谷杜氏。

醪を仕込む

ここからは醪の仕込みの工程。水と蒸米、麹、酵母がひとつになる最終ステージです。麹がつくり出した糖分が酵母によって、アルコールに変わります。

弊社の酒造りは、底が丸いタンクで仕込んでいるのが特徴です。

底が丸いステンレス製のタンクは高い製造技術が必要で、高価。しかし、自然の対流を生み出し、安定的な生産につながるそうだ。

酒造りは、どんどん新しくなっています。弊社もタンクをステンレスにして、仕込みの方法も大きく変わりました。

ただ、乳酸菌はもともと、この蔵に住み着いていた菌を4種類、プラス、その親戚みたいな菌、全部で5種類を使い続けています。

「木製の桶や道具に住み着く乳酸菌を捕らえた」と板谷杜氏。工場の所々に、桶など昔ながらの道具が残されていた。

三段仕込み

酒造りは三段仕込み」という風に言っているんですけども、いきなりたくさんの量を仕込もうとすると、酵母が薄まってしまって、他の菌が入ってきた時に負けてしまう可能性があります。

そのため、仕込みは3回にわけます。酵母を強くしながら、確実に生き残らせるお酒の製造方法は、室町時代ぐらいに確立されました。そんな時代に、酒造りの原型が出来上がっていたんですよね。

ちなみに、糖化が優位に進めば甘くなり、発酵がより進むと酸味が出たり、辛くなったりします。いわゆる、お酒の甘口・辛口です。

目指すお酒の味によって経過温度を変えたり、水を入れるタイミングを変えたり、途中にまた水を入れたり ―― 主役はお米であり、微生物なので、私たちはうまく糖化と発酵のバランスを取れるよう環境を整えています。

搾る ~槽場

これは昔のお酒を搾る機械です。

ちょうど船みたいに見えることから「槽場」(ふなば)と呼ばれるようになり、搾りを担当する方も「船頭さん」と言われます。

最新の機械はステンレスで作られていて、大吟醸もそちらで搾っています。

この工程で出る搾りかすが「酒粕」だ。

酒の美味しさ、その5大要素

お酒には、おいしさを構成する5大要素があると思います。

1つ目は、やっぱりお米とか水という原材料が持っているおいしさ。

2つ目は、麹とか酵母という生物が作り出してくれるおいしさ。

3つ目は、この金沢で磨かれた要素。

1625年の創業以来、この土地で鍛えられたものだったり、この土地の寒さだったり、金沢で洗練されたおいしさだったり。

4つ目は、人間がちょっと手助けをすること。

例えば、弊社の『黒帯』というお酒は、多可町の山田錦と長野の金紋錦という酒米を、金沢の酒蔵で仕込む。これは人間が関与しないとできません。蔵仕事も然り。僕ら、裏方のちょっとした働きですね。

5つ目は、時間。

お酒は寝かせることによって、独特の風味や味わいが出てきます。弊社にも、1970年に造ったお酒が、まだタンクの中にあるんですよ。 私はこの5つが、お酒をおいしくする要素だと考えています。

神社 ~自然現象と百年水への感謝

こちらは、酒蔵のお社です。

お酒造りって、お米とか水など、自然からいただくものでもありますし、さっきお話した通り、発酵そのものがやっぱり自然現象なんですよね。

なので、そういった自然の移ろいが「順調にいきますように」という思いで、毎朝、参拝しています。弊社の当主も、しょっちゅうお参りされています。

ちょうど冬の間 ―― 8時半頃に、朝日がこの社のご神鏡に合わさって、反射がきらめくんです。まさにパワースポット。美しいですよ。

眺めも最高です。向こうの……その向こうに、白山の一番北側が見えるんですよ。

白山に降った雨や雪が地下を辿り、弊社に届いています。以前、金沢大学に調べていただき、「福光屋に到達するまで、100年以上かかっている」そうです。

弊社は、これを「百年水」と名付け、全てのお酒造りに使っています。

一階の給水スポットは毎日、ご近所さんやお料理屋さんなど、水汲みに通われる方で賑わっているんですよ。

杜氏にとっても水は大切で、「毎朝、一番に水の味を見て、体調を確かめる」と板谷杜氏。「調子がよければ、水の味をより強く感じます」とも。

多可町日本酒フェスタ2023

と き 令和6年2月23日(金・祝)午前10時~午後3時
ところ 多可町文化会館(ベルディーホール)
    屋内(大ホール・ロビー)、屋外(噴水広場等)

多可町ゆかりの酒蔵16蔵のお酒を飲み比べできます!
お酒を飲まない方も楽しめる企画あります♪

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