移住は家族時間を充実させた ~佐藤ファミリーインタビュー

今回、多可町がPRの一環としてラッピングバスを走らせることになり、筆者がバスのデザインや特設サイトを制作。そのシンボルを担っていただいたのが佐藤ファミリーです。


 



佐藤ファミリーは移住者とUターンのご夫婦。夫・恭平さんは明石市、妻・里奈さんが多可町のご出身です。2019年、神戸市垂水区から多可町に移住。現在は端整なログハウスで3人のお子さんと暮らしています。

里奈さんいわく「ちょうどいい田舎」の多可町を舞台に、子どもたちだけで焚火? 夜の山で鹿を追いかける5人組? リアルどうぶつの森ライフ? 山間の町ならではの生活を満喫しているご様子。しかも、ここ最近はお子さんにも大きな変化が現れたようで ―― 

移住者的感覚と地元民の視線が織なす、ほのぼのインタビュー! 田舎暮らし、多可町ライフのエピソード満載でお届けします。

家族構成と多可町歴

夫:恭平
妻:里奈
長女:奈花
次女:葉奈
長男:咲来

多可町歴:3年目

 

明石と多可のカップル

まず、ご夫婦のお生まれから教えてください。
 

恭平さん ―― 僕の生まれは兵庫県の明石市です。中学校まではそこにいて、高校時代から神戸の垂水区に移り住み、30歳まで暮らしました。
 

里奈さんはどちらですか?
 

里奈さん ―― 私は多可町が地元です。大学も実家から通いました。
 

恭平さんのお仕事、教えていただけますか。
 

恭平さん ―― 大阪市消防局でレスキュー隊をしています。
 

里奈さんはどのようなお仕事をされていますか?
 

里奈さん ―― 看護師です。
 

移住の理由 ~鍵っ子にさせない

どういった理由があって、多可町に移住されましたか?
 

恭平さん ―― 長女が小学校に上がる前、「僕らの勤務形態やったら、奈花は鍵っ子になってしまうな」という話しになったんです。
当時、住んでたのは実家の近くだったんですけど、僕の親も働いているので預けるのは無理でした。
 

里奈さん ―― 鍵っ子にはしたくなかったんです。できたら……人の目がつきやすい、私の実家のそばで生活できれば、子供たちものびのび生活できるんじゃないかな、と。
 

恭平さん ―― そこからですね、移住を決めて。
 

複数の候補地から絞り込む移住者が多いと思いますが、佐藤ファミリーは違ったのですね。
 

里奈さん ―― 子どもが小学校から帰ってきたときに、すぐに実家に寄れるということで、多可町以外は考えていませんでした。
 

通勤時間を楽しむ


里奈さんは地元ということで、多可町をよくご存知だったと思いますが、恭平さんはいかがでしたか?

 

恭平さん ―― 妻と付き合っていたとき、実家に遊びに来ていたので、「周りの人たちがよくしてくれる土地だな」と感じていました。「住んだら絶対にいいとこ」だと。気がかりといえば、通勤だけで。
 

大阪の消防署まで、どのように通ってらっしゃるんですか?
 

恭平さん ―― 自宅から車で新三田駅に出て、そこから電車です。だいたい1時間50分ぐらいかかります。
 

通勤時間としては長めですね。レスキュー隊として鍛えられてるとはいえ、疲労感が伴うのでは?
 

恭平さん ―― それが、全然苦痛じゃなくて(笑)多可町に来る前の通勤時間は、本当にただ移動しているだけでしたが、いまは車で好きな音楽をかけたり、電車だったら本を読んだり、楽しいですよ。どうやったらもっと楽しくなるか、工夫するようにもなりました。
 

里奈さんは移住によって労働環境が変わりましたか?
 

里奈さん ―― そうですね。移住ということではなく、今年(2021年)の4月から新しい病院で働き始めました。看護師は働く場所がたさくさんあるので、助かってます。
 

多可町のいいところ ~高校生まで医療費無料


では、お二人が感じる多可町のいいところ、教えてください。

 

里奈さん ―― ひとつは医療費ですね。前にいたところは3歳から、すこしですが医療費がかかりました。それが多可町は高校卒業まで無料。子どもが3人いると、お金もかかってくるので、すごく助かります。
 

恭平さん ―― 僕は多可町の景観が好きです。育った場所が海側で、家からも海が見えるような所でした。多可町は目の前に山が広がってるので、世界の見え方が違うんですよね。晴れた日に、山々が見える景色がすごくきれいで、空気も澄んでいます。
それと、フレンドリーな雰囲気。遠くから移り住んできた僕らに、ご近所さんみんな、オープンに接してくれます。
 

里奈さんはいかがでしょう? 生まれ育った多可町に戻られて、見え方が変わったことなどあったでしょうか。
 

里奈さん ―― 前に住んでいた神戸市垂水区の家が公園のすぐ隣だったんですけど、それでも子供だけで出すのはすごい怖くて……人が多いので、当然、面識がない人もたくさん来ていて。でも、挨拶をすると逆にこう……不審者に見られるというか、「え?」って表情をされるような場所だったんです。
多可町は「子どもたちが遊びに行きたい」って言えば「行っておいでー」と送り出せるのが、すごくいい。
あとはちょっとしたことですけど、「(あなたのところの子ども)傘、持ってなかったけど、あとで雨が降るかもしれないよ? 大丈夫?」とか、近所のおばちゃんたちが教えてくれるんです(笑)
こういう、みんなで子どもを見守る雰囲気は、私が子どもだった頃から変わってなくて、多可町のいいところだなぁと、あらためて感じますね。

神戸と多可、ずいぶん様子が違うんですね。

恭平さん ―― ぜんぜん違いますね(笑)

多可町の子育て ~焚火する子どもたち

お子さんの様子はいかがでしょう? 都会から移り住まれて、変わったこともありそうですが。
 恭平さん ―― 来る前は多可町という見ず知らずの場所で、子どもたちがうまくやっていけるのか、すごい不安でした。でも、ぜんぜん大丈夫でしたね(笑) 

里奈 ―― 子どもたちが外で遊ぶ時間、すごく増えたんです。暇になれば「外行ってくるわー」って出かけて行って、きっと走り回ってるんでしょうね、その勢いで「ただいま!」って戻ってきて(笑) 

恭平さん ―― のびのび遊んでます(笑)
 里奈さん ―― 花を摘んで帰ってくることもあって。そういった遊び方から見ても、子どもたちの生活の幅が広くなったなぁと思います。

以前のお子さんたち、いまほどアクティブではなかったんですね。

里奈さん ―― 私たちにべったりでした。公園に行っても「そばにおってね」みたいな。今は気づいたらどっかに行ってます(笑)

恭平さん ―― チャレンジする姿勢も出てきました。たとえば、うちの庭で焚火するんですよ。子どもたちだけで。 

子どもたちだけ? それは以前住まわれていた場所だと……

恭平さん ―― 通報されますね、間違いない(笑)

恭平さんが消防にお勤めのレスキュー隊員ですし、ましてご自宅のお庭なら心配はないでしょうけれど(笑)

恭平さん ―― 子どもたちだけで石を並べて、拾ってきた薪をくべて……日頃から多可町の自然に親しんでいるから、出来るようになったんだと思います。チャレンジするというか、ちっちゃい世界で止まらないというか。

里奈さん ―― いろんな経験ができたからか、とにかく元気になりました(笑)

恭平さん ―― 僕らも過ごし方が変わったんです。アウトドアやDIY、さっきの焚火もそうですし、里奈と2人でいろいろ始めるじゃないですか。そうすると、子どもが「あれがしたい! これもしたい!」って乗っかってくる。

里奈 ―― 壁のペンキ塗りも手伝ってくれました。

恭平さん ―― 都会の生活ではなにかと制限があったり、自分で範囲を決めたりしてたんですが、多可町で暮らすようになって、夫婦としても「ここまでやっていいんだな」と幅が広がった感じですね。

里奈 ―― リアルどうぶつの森にも出かけるしね?(と奈花ちゃんを見て)

リアルどうぶつの森?

里奈さん ―― 庭でガサガサって音がするんですよ、夜。それで、みんなでライト持って出ていくと鹿がいる(笑)

恭平さん ―― 追いかける(笑)

里奈さん ―― でも逃げないんですよね、鹿(笑)

恭平さん ―― 「どうやったら逃げるんだろ?」って話してたんですが、里奈がくしゃみしたら、さすがに逃げましたね(笑)

鹿もくしゃみは怖かったんですね(笑)お2人はお子さんの変化を、どんな気持ちで見守られていますか?

恭平さん ―― イメージ通りかなあ……?(と里奈さんに視線を合わせて)。

里奈さん ―― うん。

恭平さん ―― 親が口だけで「のびのび育ってほしい」って、いくらでも言えるじゃないですか。今は心の底から「のびのび育ってる!」と言えます。多可町の環境と支えてくれる方々のおかげです。
 

妻のような人になって

そういえば、娘さんは全員、花にゆかりがあるお名前ですね。

恭平さん ―― はい。妻が里奈という名前なので、その響きから名前を付けたかったんですよ。妻のような人になってほしくって。 

愛を感じる言葉!


恭平さん ―― 最近……ちょっと違うかなって思ったんですけど(笑)

里奈さん ―― 似たらアカンって?(笑)

アカンって(笑)

恭平さん ―― ですね(笑)とはいえ、女の子なら花の名前をつけたかった。長女はジャスミンの花からとって奈花(なな)。花言葉が「やさしさ」だったので、そういう人になってほしいなと。

里奈さん ―― 長女に花の字をつけたので、次女には葉っぱの葉の字を付けて葉奈(はな)にしました。

恭平さん ―― 末っ子の「さくら」の「咲(さく)」は、「笑」の古字から採ったんです。笑いが来るような人生を過ごしてくれたらと。
 

やっぱり4月生まれですか?
 

里奈さん ―― 11月生まれなんです(笑)秋桜もイメージしてます。
 

笑顔が溢れるコスモスのような女性像ですね。
 

恭平さん ―― あ、男の子です。
 

え?! ごめんなさい!
 

恭平さん ―― よく間違われるんですよ、女の子に(笑)
 

多可町は意外と不便じゃない

多可町で2年間、生活されてきて、不便さや物足りなさを感じることもあるのでは? 
 

恭平さん ―― 都市部に比べて不便なのは分かってきたことなので、んー。すぐには思い浮かばないですね。しいていえば買い物でしょうか。スーパーが少ないので、出先から戻るときに買い物を済ませるので、時間のやりくりが上手になったかもしれません。
 
上手になったとなると、いいことのお話ですね!
 

恭平さん ―― そうですね(笑)それ以外……ないですね。ある?(と、里奈さんを見て)
 

里奈さん ―― 私はこれが当たり前で育ったので(笑)
 

そうですよね(笑)
 

恭平さん ―― 来る前は不安だったんですよ。もともと都会志向だったし、不便にも慣れてなかったので、「多可町に住んだらどうなるやろ」って。でも、全然いけました(笑)
アマゾンプライムもちゃんと届くし。大変さや不便さは、ほとんど気にならないですね。移動にしても大阪まで60分ちょっとで出られますし。

里奈さん ―― あ、ひとつだけ。

ありましたか?

里奈さん ―― 子どもが夜になって「明日、あれが必要」って言い出した時、買い物にいけない(笑)

恭平さん ―― ああ、それはある(笑)
 

里奈さん ―― 実家に「●●あるー?」って聞いたりとか、調味料とかでもご近所に「かして!」ってお願いしたりとか。

恭平さん ―― そうすると、すぐには見つからなくても、僕らが相談した人が次につなげてくれて、誰かが助けてくれるんですよ。

アマゾンプライムよりすごいシステムですね!

里奈さん ―― そうですね(笑)
 

移住後、家族の時間が増えた

ここまでお話を伺い、佐藤ファミリーが移住後の生活を満喫されていると、よく伝わってきます。

里奈さん ―― 家族とどう過ごすかを楽しく考えられるようになりましたね。
前に住んでいた場所だったら、ちょっと公園に行って、ショッピングモールで買い物して帰るみたいな感じだったんですよ。
多可町に来てからは「今日は焚火しようか?」とか、「ご飯はお庭で食べよう」とか。散歩するだけでも自然を感じられて楽しいし、夕方、みんなで歩きに行って。

恭平さん ―― 季節の変わり目も分かるようになりました。木の感じとか、匂いとか……田んぼの眺めとか。

里奈さん ―― 蛙が鳴くのを聞いたり、金木犀の匂いを嗅いだり、家族で「太鼓の音が聴こえるね」って話したりとか。
 

恭平さん ―― 前までは暑いか寒いか、その程度の感覚で暮らしていた気がします。多可町は四季を肌で感じられますね。
 

佐藤ファミリーの未来

充実した多可町ライフも3年目を迎え、お子さんも大きくなってきますよね。今後について、どのようなイメージをお持ちですか?

里奈さん ―― ゆっくり、やりたいことをやっていく……ですかね。子どもたちがやりたいことを尊重してあげたい。

恭平さん ―― 子どもたちには、せっかくだからもっともっと自然に触れてほしいですね。そうすることで見え方が変わるというか、暮らしにメリハリがつくというか。都会よりも多可町で得られる物、感じられることのほうが心を豊かにするように思います。そういう感覚、子どもたちが持ってくれたらなぁと。

里奈さん ―― 私は正直……子どものとき、恥ずかしかったんです、田舎っていうのが(笑)ちょっと大きくなってから友達と話すと「出身、どこ?」って聞かれるじゃないですか。「多可郡……」って言った時点でもう、「え?」みたいな反応で。「いま、郡って言った?」って(笑)

恭平さん ―― 僕も知らなかったですよ、「多可郡ってどこ?」って思いました(笑)

県下でも知られてないんですね(笑)

里奈さん ―― そうですよ! ちょっと町から出たら、多可町のことなんて知られてません(笑)だから恥ずかしかったんです。
大人になって振り返ると、「いいところだったんだなぁ」と。外から帰ってきた知り合いも少なくなくて。
子どもたちも、一度は多可町が嫌になったり、都会に出たりするかもしれません。ただ、いずれは「最初住んでた多可町って、すごくいいところだったんだな」と気づいてくれたらと思ってます。
 

移住を考えている人に

最後に、多可町を移住候補地に入れている方に、メッセージをお願いできますか。

里奈さん ―― 多可町って、田舎とはいえ、ちょうどいい田舎だと思うんです。すごい田舎ではないし、買い物も普通に行けて、県のちょうど真ん中あたりにあるので都会にも出やすい。
移住を検討していても「でもやっぱり、田舎ってどうなんやろ……?」と不安になる方もいるでしょうけど、ふらっと来て暮らせるところなので、安心してください。

恭平さん ―― 移住って田舎の不便さがハードルをあげてると思うんです。でも、それはあくまでもイメージで、実際に暮らすと感じません。
そもそも、生活にとって大事なのは場所じゃなくて、どう暮らすかってことだと思うんですよ。
田舎は自分の心を豊かにしてくれるし、人とのつながりもあって、周りの人がサポートしてくれます。一歩踏み出すと、田舎ならではの暮らしが楽しめると思います。

取材後記

今回、多可町ラッピングバスプロジェクトを立ち上げたとき、最初に考えたのがモデルのこと。「バスのデザインにファミリーの写真を使いたい」と思いました。それも、「ぜひ移住者に」と。

ただ、バスは約1年間、西脇から三宮、高速道路を走ります。「恥ずかしいって言われるかな……」と不安がありながら相談して回ったところ、ある日同僚から「出てくれる家族、見つかった!」と連絡が ―― 
「電話したら『なにそれ面白そう』って大笑いだったで(笑)」
そんな最高のリアクションをしてくれたご家族こそ、佐藤ファミリー。ご面談をお願いしたところ、まさに絵になるご家族で「こんな幸運ってある?!」と感激でした。

取材当日は余暇村で撮影し、その後新築のログハウスにお邪魔してインタビュー。夕方まで続いた収録の最中、咲来くんが抱っこされたり……奈花ちゃんが耳打ちしに来たり……最後はなぜか、里奈さんの手に某じゃがりこの空き箱が握られるなど、とにかく盛り上がった1日でした。  

写真提供:佐藤ファミリー
取材・撮影・ライティング:黒川直樹

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