変わり種もいっぱい! 旬の野菜を年間約60種、有機物質だけを使いながら栽培します。
祐尾智紗美さんは約10年間、世界をぐるりと歩いた旅人です。
「海外に行って、お金がなくなれば現地で働いて、それでもやりくりできなくなったら日本に戻ってバイト。貯めたお金でまた海外に行って」
そんな祐尾さんが旅先のいろんな農場で働いた経験や、その農家の家族・仲間と過ごした濃厚な生活から有機野菜づくりに目覚め、生まれ育った多可町で立ち上げたのが「農場なつめやし」です。
そんな農場なつめやしさんのインタビュー第3弾は「自家採種」がお話の中心。
「種を取り、蒔き、それが芽吹いてシーズンを終え、また取った種を蒔く。これを続けると野菜が強くなる」と話す祐尾さんに、自家採種の方法や魅力、オリジナル伝統野菜(?)について伺います。
●農場なつめやしインタビュー
教えて、祐尾さん!
「いずれはオリジナルの伝統野菜が誕生? 自家採種の役割、そして楽しさ」
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質問!
Q:祐尾さんは種を採り、独自の栽培を試みておられるそうですね。詳しく教えてください。
Q:自家採種の思いがけない結果、成果はありましたか?
Q:祐尾さんは種を採り、独自の栽培を試みておられるそうですね。詳しく教えてください。
A:栽培し、選抜した野菜から種を取る「自家採種」を行っています。
葉物野菜なら花が咲き種がつくまで畑に残し、トマトなど果菜類の場合は完熟した実から種を採ります。
2つの方法を使い分け
ひとつ、お伝えしたいことがあります。それは、農場なつめやしが蒔く種、そのすべてが自家採種したものではないということ。
美味しい野菜だったり、珍しい品種だったり、収穫時期の計画が立てやすい種類だったりしたら、種を購入し、それを栽培することもあります。
自家採種に興味を持ったきっかけ
研修先だった牛尾農場で分けてもらったネギの種。これが、自家採種に興味を持ったきっかけです。
牛尾農場は、もう40年近くも自家採種し、野菜を育ててるのですが、その種を、私が今「ヒッピー太ネギ」として繋いでいます。
「ヒッピー太ネギ」は、とっても柔らかく、甘い。私の中で、まちがいなく世界一のネギです。この種が無くなれば、この世界一のネギも無くなります。種取りをしない訳にはいかないですよね。
種採り用の野菜を見極める
野菜は作り続けていると、だんだん強い品種になるんですよ。なかでも、種を摂るのは、特によく育った野菜から。
ネギだったら太くて、とう立ち※が遅く、土から抜いた時、根元がぷっくりと太いものを選びます。大根であれば、サイズや色、形が見どころですね。
※とう立ち:花の芽のついた茎が伸びること。たとえばネギは、とう立ちが始まると固くなり風味も損なわれる。「とう立ちが遅いほど収穫期間が長くなり、美味しい野菜を長いこと食べられるんですよ」と祐尾さん。
時期によっては早く育ってほしい野菜もあります。
同じ品目でも成長の速度が異なる種を蒔けば、収穫の時期をずらせたり、安定的な出荷につなげられたりします。
種(たね)の消滅、種(しゅ)の滅亡
種の寿命は豆だったら1年ぐらい。ネギも短いですね。
トマト、ナス、キャベツはそれよりも寿命が長くって、大根はうちでは3年以上前に採種したものからでも芽が出てきます。
自家採種は美味しい野菜、つよい野菜を育てるだけではなく、種の保存の役割も大きいと感じています。
先ほどのネギの話もそうですが、もしも種が無くなったら、この美味しい野菜が世から消えてしまう。そんなことになって欲しくない気持ちもあって、
自家採種が出来る野菜を多く育てています。
「美味しい野菜を食べ続けたい」という気持ちも大きいです(笑)
Q:自家採種の思いがけない結果、成果はありましたか?
A:ありました! というのも……
ある年、カーボロネロ(黒キャベツ)とケール、ひとつの畝で育てたんです。
収穫期が終わって、カーボロネロの種だけを採りました。
翌年、そのカーボロネロの種を蒔いたら、出てきた芽や成長した株はどうみても、ケール。カーボロネロの外見の要素はありませんでした。
何が原因なのか分からないまま育てて、収穫をして、試食したとき「え?!」ってなりました。ケール特有の臭みがなく、甘味はしっかりあって……黒キャベツをさらに美味しくした味だった(笑)
交配したんでしょうね。新種の野菜ができました。
少し前は、鮮やかな緑色がトレードマークの万願寺唐辛子が紫色になったし、近所の農家さんから「珍しい野菜ができたよ」と、真っ白な安納芋をもらったこともあります。
目指ざせ、農場なつめやし発の伝統野菜!
こういうの楽しいですよね。思いがけない交配や変異があって、見たこともない野菜が育って。
私がここで50年、60年、農場なつめやしだけで育つ野菜を作り続けたら、いずれはそれが伝統野菜になるかもしれません。
そんなことを考えながら、変わった名前を付けて楽しんでます(笑)
「ヒッピー太ネギ」がその代表格です。
取材:小迫悠香/黒川直樹
撮影・ライティング:黒川直樹
「農場なつめやし」の次の記事を読む! → タカラバコ! 野菜作りで人との距離が近くなり、世界が変わった
基本情報
農場なつめやし
オーナー:祐尾智紗美さん
多可町加美区山野部
農場なつめやしの記事一覧
p1.10年かけて100カ国を歩いたら、生まれ故郷に辿り着いた ~農場なつめやし
p2.農場なつめやしの安心安全栽培って、どんな農法?
p3.いずれはオリジナルの伝統野菜が誕生? 自家採種の役割、そして楽しさ
p4.タカラバコ! 野菜作りで人との距離が近くなり、世界が変わった