ハウス栽培のトマト&有機にんにく ~多可町のプロ農家が直伝する農業(農業ツアー第4弾)

温暖で自然豊かな兵庫県多可町。

大阪や京都、神戸から車で1時間半、播州の奥座敷です。

播州百日どりやお米、有機野菜など付加価値の高い素材が多数あるなど、「農」のポテンシャルを秘めています。

そんな多可町で開催された農業体験ツアーの第4弾!

ハウス栽培されるトマトや有機農法・露地栽培のニンニクなど野菜作りの話から、農地選び、補助金申請のポイント、水路・水源の交渉まで、起業のヒントも盛りだくさんのツアーをレポートします。

参加者

Fさん

関東地方から起こしのFさん。

「出身地の過疎化がすすみ、いずれは活性化に貢献したいんです。そのとき、農業はどうだろう?と思って」と話します。

「勤め先がスマート農業のサービスやプロダクトを開発しているんですが、その内容が農家さんのニーズに適っているのかも知りたくて」とも。

よしなか COZY FARM

農業ツアーの第一部は、よしなか COZY FARMを訪問。

大学で建築を学びながら、プロゴルファーを目指して留学するなど、異色のキャリアを有するプロ農家・吉仲さんにお話を伺います。

土は下半身

吉仲さん ―― Fさん、今日は関東から来てくださったんですよね? なぜ、多可町まで?

Fさん ―― 私が知りたかったことを教えていただけそうだったのと、開催時期、もともと関心があった明石市に足が運べそうな地域だったことから、応募させてもらいました。

吉仲さん ―― それにしても、はるばる多可町までお越しくださるなんて、研究熱心ですよね!

Fさん ―― そんなことないです(笑)吉仲さんは、どれくらいの規模で営農されていますか?

吉仲さん ―― 弊社は水田が350a、畑地が2a、ビニールハウスが20a。品目でいうと酒米や黒大豆、なすやピーマン、スイートコーンなどを栽培しています。

中心は今日、ご案内するビニールハウスを使った栽培ですね。トマトが3000株、ミニトマトが400株、 イチゴが1600株です。

Fさん―― 栽培の特徴を教えてください。

弊社は「微生物農法」を実践しています。多可町の土にこだわり、米の籾殻(もみがら)や木の堆肥を大量に混ぜ込み、土中の微生物を活性化させるんです。

野菜づくりにおける土は、人間でいう下半身。野菜の旨みをアップさせるために欠かせない作業です。

一株の病気に気づく

Fさん ―― ハウスの環境は、どのように管理されていますか?

吉仲さん ―― パソコンで使う「プロファインダー」という環境測定器を利用しています。

ただ、そのデータは参考にする程度。私は「足で育てる」をモットーに、毎日ハウスに通い、自分の目で状態を確かめています。

Fさん ―― データ化やIT関連のプロダクトを利用した、スマート農業が促進されていますよね。それでも、吉仲さんはご自身の足や目を大事にされているということは、プロ農家として、ITや機械に任せきりにできないご実感があるのでしょうか?

吉仲さん ―― トマト摘みにしても、機械がやると「ういーん、ぎゅーん……プチン」みたいな感じで、時間がかかるんですよ。私がやったら「パッ、プチン! パッ、プチン!」なのに(笑)

いまは、機械にしても速度が出ない場合が多いし、大規模ならまだしも、弊社の規模では導入メリットも少なくて。データ化、IT化にしても、農家によって全く環境が違うので、信用しきるのは難しいですね。

たとえば、畝のなかで、一株だけに病気が出る。それに気づけるかどうかで、全体の収穫や状態に影響があります。日々、作物の状態を見て回って、自分なりに経験を積んで、対処法や工夫を身につけておかないと農家としてやっていけない。

不可欠なストレス

吉仲さん ―― 作物にとって、適切なストレスを与えられるようになるのも大事です。

Fさん ―― あえてストレスを与えるんですか?

吉仲さん ―― 人間と一緒です。心地いい環境でどんどん育つと、急に伸びすぎ、細くて倒れてしまったり、果肉が熟さなかったりします。よすぎる環境だと、かえってよくない。

水分量を減らしてしなしなにさせることもあるし、温度を下げて弱らせることもある。枯れさせない程度のストレスが、野菜の品質を高めます。自分の目で見て、こういった塩梅を利かせられるところが、農業の面白さですしね。

……なんて言っても、試行錯誤の日々で……私は起業から9年間、作付けや農法のノートを付けてきまして、それを参考に水の量や肥料のタイミングを微調整してますが、失敗は避けられないし、毎朝、「もうやめたい!」って思ってますよ(笑)

Fさん ―― 毎朝?(笑)

吉仲さん ―― 毎朝「……学校に行きたくない!」ってぐずる、小学みたいな気分です(笑)

農業の厳しさと醍醐味

吉仲さん ―― あらゆる個人事業がそうでしょうけど、朝ね、「あと10分寝たい……」みたいな気持ちを乗り越えて、毎日、作業を続けられるかどうか。サボろうと思ったら、できてしまうんですよ。

特に、農業は繁忙期になったら、日の出から夜遅くまで仕事。それを日々、何年もやらなければいけない。それこそ、「もうやめたい!」って、つくづく思います(笑)根気が要る生業です。

まして農業で起業しようと思ったら、機械や設備など高額の経費がかかる。私自身、5aの農地にハウスを建てるところから始めましたが、初年度で650万円ぐらい必要でした。

それだけお金をかけたって、体力的にきつくてやめてしまう農家さんが、少なからずおられる。繁忙期以外にしても、ほとんどの時期は毎日畑に出て、作物や土の状態を見て、作業をしますしね。

Fさん ―― まさに重労働ですね……

吉仲さん ―― ただ、収穫のシーズンが終わり、出荷をやりきったときの爽快感! 達成感! これは最高です! 「おれ、すごいじゃん!」って毎回思いますよ。

販売する作物を褒められるときのうれしさも格別ですしね。娘を褒められるみたいな感じ。こうした喜びや声に励まされて、続けられるんです。

将来、農業でやっていきたい方は、研修することをおすすめします。できれば年単位。

土作りや苗植え、草引き、収穫までね。一通りを経験して、きつさも厳しさも、喜びも実感したあと、それでも「やっぱり農業でやっていく」と思えるかどうか。

農業を続けていけるかの、リアルな判断基準が得られると思いますよ。

七代目藤岡農場(AgLiBright)

続いて、七代目藤岡農場の藤岡啓志郞さんを訪問。

有機農家として有機JASの圃場を整備し、ニンニクや米、酒米を栽培しながら、顧客ニーズにあわせて慣行農法・有機農法を併用する藤岡さんにお話を伺います。

獣害対策を兼ねた品目選び

Fさん ―― 藤岡さんの圃場は、どれくらいの面積ですか?

藤岡さん ―― 有機、慣行の圃場を合わせると、東京ドーム5個分です。

Fさん ―― ドーム5個分?!

藤岡さん ―― 広く感じますよね(笑)ただ、最低でも、その半分くらいの圃場で営農しないと、農家一人も食べていけないと言われてます。弊社の規模くらいあれば、どうにか数人を雇用できるレベルですね。

もちろん、経営を成り立たせるとしたら、圃場の規模だけではなく、場所や品目の選び方も大事です。

多可町は獣害も多く、田畑の畝をイノシシに潰されたり、鹿が黒豆の豆だけを器用に食べたりします(苦笑)こうした獣害をできるだけ避けるため、食べられにくいニンニクを主力に据えることにしました。

圃場を飛び地で保有しているのも、一カ所の作物が病気でやられても被害がその田畑でとどまるように、リスクヘッジの面があります。

トラクターは農家のベンツ

Fさん ―― これだけ広いと、草取りや農薬の散布も大変そうですね。

藤岡さん ―― 散布は簡易的に制作した散布機を使うこともありますが、だいたいはドローンですね。大型のドローンで、200万円ぐらいします。トラクターを新調しましたが、高級車くらい。

藤岡さんが使う散布機

Fさん ―― どれも高額ですね……

藤岡さん ―― トラクターは農家のベンツと言われてます(笑)新品を一括で購入するのは、あまりに負担が大きいので、弊社は中古を選ぶか、補助金を利用しています。このトラクターにしても、県の補助金を使って、1/2で購入できました。

もちろん補助金も簡単にはもらえなくて、「圃場を守るため」とか「スマート農業の促進」、「直進アシストの機能で生産性を高める」など、時代に適った用途、必要性を説明しなければならないですね。

もらえたとしても、7年間ぐらいは償却できません。起業したとき、ベテラン農家さんから「立ち上げから7年間はお金の面で苦しむけど、なんとか耐えろ。そこからは、利益が出るようになるから。気持ちで踏ん張れ」と背中を押されました(笑)

強みを活かした営農スタイル

Fさん ―― 畝のうえの茶色いものは?

藤岡さん ―― 籾殻です。雑草の押さえになります。籾殻をかけてない畝と比べると、効果は一目瞭然です。

籾殻ありの畝

籾殻なしの畝

Fさん ―― ぜんぜん違いますね……藤岡さんは、こうした農法が得意なのですか?

藤岡さん ―― そうですね。私はもともと、大学で生命科学を専攻して、化粧品や薬品の分野に進む予定でした。体のことを考えるなかで健康の大事さに気づき、安心で安全な農産品の栽培を志したんです。

こうしたキャリアから、バイオなど科学的な知見を農業に取り入れています。培養した納豆菌を生物農薬として使ったり、ニンニクの加工のために詳細なデータを取り、それを参考に加工法を編み出したり。

ハードやプロダクトの製造から転身された農家さんは、環境整備から農作物の栽培を考えるなど、専門領域があって、それを活かしている方が少なくありません。

七代目藤岡農場がニンニクを乾燥するコンテナ。環境、条件の算出などは、藤岡さんの得意ジャンル。

Fさん ―― 吉仲さん、藤岡さんとお話させてもらって、農業観が大きく揺さぶられています。多可町に来るまでは、農家の皆さんにはある程度……共通の手法やセオリーみたいなものがあると思っていたのですが……

藤岡さん ―― いろんな農家さんがおられます。吉仲さんがおっしゃっていたように、繁忙期ともなると、起きている時間はずっと農作業が続くとか、夏場の草取りは明け方から晩までかかる重労働だとか、その辺りの大変さは通じるものがありますけど(笑)

取材後記

ビニールハウス栽培のよしなかCOZY FARMと路地の田畑で栽培する七代目藤岡農場。

Fさんはプロ農家が直面する課題や独自の営農スタイル、赤裸々で痛快なパーソナリティと出会い、「農業観が揺さぶられた」と振り返られます。

「皆さん、パーソナリティや得意ジャンルに根差し、オリジナルの手法で営農されているんですね。いずれ地元に帰り、農業で活性化させられたらと思って多可町を訪問しましたが、いろんなイメージができました」

Fさん、はるばる関東から多可町までお越しくださって、ありがとうございました!

そして農家の皆さん、お世話になりました。

▼運営

㈱多可町地域商社RAKU

多可町の有機栽培野菜については買取販売を実施。兵庫県内でのマルシェ活動や販路拡大を通して農産品のPRを行っています。
空き家を通した移住定住支援や空き家の利活用なども行っています。
まずは知ってみる!やってみる!という方、下記、イベントページからお気軽にお問合せください。

SMAUT 多可町イベントページ

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